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ニュー第21話 ピカレスク

 俺かい?馬場則男(21)。ま、いっぱしのワルってとこよ。
 いつまでも、ガキじゃねえぜ。
 いててっ。
 昨日ハジかれちまった脇腹がうずくぜ。
 へへへ。このぐれーでくたばる俺じゃねえっての。
 それか、盲腸かもしれません。
 
 今から万引きをする。悪いなあ、俺。
 このコンビニにしよう。
 何を盗ろうかなあ。あ、これがいい。

 そうして、酢ダコさん太郎という菓子を万引きした。
 
 「ふおふおふお、店長ですが。お客様、そちらの商品はお会計がお済みではないのでは?」

 げっ。見つかった。

 「ふおふおふお、あなたは万引きをした。万引きはいけない。よって、あなたはいけない。」

 三段論法を用いて責めるとは、知的な店長だぜ。

 「天網恢恢疎にして漏らさず、とはこのことです。ふおふおふお。」

 難しいことわざまで知っていやがるとは、すげえぜ。大卒だ。この店長、大卒に違えねえ。

 「法政大学経済学部国際経済学科卒です。」

 あんまりおもしろくねえことを詳しく言いやがった・・・!

 「ふおふおふお。御一緒に肉まんもいかがですか?」
 「じゃあ、ひとつ下さい。」
 「ごちそうさまでした。」
 「どうしてあなたが食べるんですか?」 
 「まちがえました。」
 「万引きの件は、どうなりましたか?」
 「ふおふおふお。もうひとつ食べよう。肉まん。」
 「帰っていいですか?」
 「ふお!?具が入ってない!」
 「帰ります。」
 「具。」
 

 のりB十番勝負 第三番引き分け
 通算0勝2敗1引き分け
 

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テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

ニュー第22話 ねこじた

「あなた、知っていますか?
 食パンにのせて焼くと、とろけるチーズ以外のチーズでも、とろけるんですよ。」
「へえ。」

 ほぼ正確に内容は伝わっているはずである。構文的におかしいところはなく、簡潔であり、読点の位置も適当。誤解される余地はないと思う。
 しかし、これは熟慮のうえ筆記された文体であり、通常の会話の流れの中で、このニュアンスをスラスラとしゃべることは難しい。


「あなた、知っていますか?
 食パンにチーズのせて焼くとき、とろけるチーズじゃないチーズでも、焼くととろけるんです。」
「ああ、そうですか。」

 こんな感じでしゃべることができれば、優秀なほうではないかなあ。多少、冗長ではあるが、内容はきちんと伝わると思います。


「あなた、知っていますか?
 とろけるチーズじゃない、チーズ、のせると、あの、食パンにのせて焼くじゃないですか、とろけるチーズ、とろけないやつでも、とろけるチーズじゃない普通のチーズでも、とろけるんですよ。焼くと。」
「だから、なんだ。」

 文字にするとアホみたいだが、おそらく、このくらいが普通です。そしてやはり、大体言っていることは伝わるだろう。

 しかし、
 人は、ときに聞き手の魂を揺さぶるような、力強く、そして美しい言葉を語ることもできるのだから、
 語ろうではないか。灼熱の舌で、炎を吐く邪龍のように。


 あちあちあちい あちちあち
 
 何故だ あああ!
 何故とろけた あああ!
 
 君は知っているか
 とろけるチーズじゃないチーズよ
 何ということか 
 君はとろけたのだ ギャー

 とろけるチーズの矜持をかけて
 耐え抜くこと
 それが友情ではなかったか 

 焼く あああ! 
 さぞかし熱かろう 苦しかろう
 それがどうした 耐えよ 
 決してとろけるな 笑え

 
 何故だ あああ!
 何故とろけた あああ!


 とろけるチーズじゃないチーズがとろけたチーズよ

 君を食べます 

 あちあちあちい あちあちち
 おいしい 残念だ





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ニュー第23話 1,2,3・・・

1、スーザンは地獄耳だから、聞き逃さなかった。羽毛に針を落とすようなその音を。
 (何かいる・・・!?この扉の向こうに。)

2、一方、珍獣夫人は、いつもは無音なんですが、たまに思い出し笑いをするので、ちょうど今、思い出し笑った。「ふふふ。」
 〔!?・・・・。何かが、私の存在をとらえている。このドアの向こうから。〕

3、また、珍獣ゲルポボは、どんくさいほうである。
 [あああ。ハンバーグが食べたい。]

 
 (開けるべきか・・・。)
 〔手ごわい・・・。〕
 [それか、寿司。]

 
 (全ての扉は開くために!)
 〔来るか・・・。〕
 [チキンラーメンでも構わん。]



 ガチャ



 !?



 ガチャガチャ・・・!?

4、「ふおふおふお、わーい、得しました。100円で二度回せた。ギャー。二個ともテリーマンか。」
 

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ニュー第24話 ナイト・オブ・ザ・リビングデッド

 ぶぉぉんぶぉぉん ばばばば くぁぁぁ ぶぃぃん どどどどど

 僕らはオートバイによる暴走行為に青春をかけるチーム「獣~KEDAMONO~」です。

 先頭のカワサキ・ケッチが、けたたましい爆音と白煙を撒き散らす。特攻隊長のケンです。ばりばりばり。
 続いて、スズキ・ジーエス。副長のケンスケは、おっとりしていて、いわゆる草食系男子。ぶぅぶぅん。
 ホンダの名機ヨンフォアが後を追います。会計のケン坊は眼鏡をかけていて、爬虫類的。くぉぉぉん。
 その後ろ、親衛隊長、健やかなケンジ。無口。大食漢。ハーレーデイヴィドソン。ずんどこずんどこ。
 しんがりは、征夷大将軍の賢いケンジ。愛車は三菱ふそうスーパーグレートだ。ごぉぉぉん。
 
 たまにはちょっと趣向を変えて、こんな設定で実録青春暴走ストーリーを書くとしましょう。
 いくつか不自然な点もありますが、あくまで実録風フィクションとして、御理解いただければ幸いに存じます。

 続けてみます。
 場面は、夜の横浜本牧埠頭。
 事故死したケン坊の追悼集会、及び後任の会計担当者を如何にするか、ということで四人は集まりました。そんな中、ケンが「お腹が痛いから帰りたい。」と不自然なことを言いだした・・・

 「お腹が痛いんじゃ仕方ねえ。」賢いケンジが言った。
 「すまねえ、賢いケンジ。それにケン坊・・・。」とケン。
 「・・・こんなときに帰るなんて、ひどいなあ。むしゃむしゃ。」ケンスケは草をはみつつ、口をはさんだ。
 「何を言われても仕方ねえ。このけじめは必ずつける。すまん。今日は帰る。」とケンは帰った。
 「・・・お腹が痛いんじゃ仕方ねえ。」賢いケンジは繰り返した。自分に言い聞かせるように。
 そして、
 「実は、オレもお腹が痛いから帰りたい。」と言った。
 「何だって?賢いケンジ、君もかい。むしゃむしゃ。」とケンスケ。
 「すまん。帰る。」と帰った。
 「むしゃむしゃ。どう思う?健やかなケンジ。」
 「・・・・・・。」
 「ふふふ、君はいつもそうだ。しかし、こんなときには一番頼りになる。むしゃむしゃ。」
 「・・・・・・。」
 健やかなケンジは、元々口数が少ないので、ケンスケが異変に気付くまでには、もう少し時間がかかることになる。このとき、健やかなケンジはお腹が痛すぎてすでに死んでいたのだ。

 ギャー。恐ろしいことになってしまいました。珍獣ゲルポボ始まって以来、死者が出たのは初めてだ。作者特権で生き返ってもらいます。今日はもうやめよう。寝ます。

 その後、健やかなゾンビのおかげで、ますます恐ろしいことになった。
 

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ニュー第25話 でんしゃだいすき

 まず、電車に乗るためには駅に行く必要があります。
 駅に行く。
 これです。
 あなたは、駅に行くことを、電車に乗るという行為の前奏程度に思っていませんか。
 とんでもない。サビです。クライマックスです。
 電車を愛しているのなら、如何にして駅に行くか、これにはトコトンこだわるべき。
 はっきり言って、首尾よく駅までたどり着けば、もはや電車に乗る必要はないとさえ言える。
 
 さて、駅にたどり着くには、多くの過程を経なければなりません。

 決意→展望→分析→挫折→再起→瀕死→煎餅の微細欠片→九死に一生→急展開→予定調和→意外性→友情→カニバリズム→舞踏会→などなど

 例えば今日、珍獣ゲルポボは、電車に乗って三越に行くことにしました。
 「あああ、三越に行きます。デパ地下で何かおいしいものを買おう。だから。あああ。三越に行きます。」歌うように言いました(決意)。
 ではまず、最寄りの駅まで市営バスに乗って行きます(展望)。
 そのためには、まずバス停に行かねばならない(分析)。
 少しめんどくさくなってきました。あああ(億劫)。
 中止。あああ(挫折)。
 お腹がすいた。何か食べたいです(空腹)。
 そうだ。三越にゆこう。おいしいものを食べよう(再起)。
 でもその前に、お腹がすいて、もう一歩も歩けない。あああ(瀕死)。
 したがって、今、目の前にあるこれ、なんだこれ、食べます(煎餅の微細欠片)。
 ぎょええ(消しゴムのカス)。
 『あんた、ちょっとおいで。』(福田)
 あああ。行かねば。ヨロヨロ(虫の息)。
 『おかずを作りすぎたからあげるよ。』 「ありがとう、福田さん。感動いっぱい夢いっぱい。あああ。」(九死に一生)
 お腹いっぱい、機は熟した(満腹)。
 いよいよ、旅立ちのとき。待ってろ、バス停(威風堂々)。
 と思ったら、
 ドシーン、ズシーン(急展開)。
 何だこの音は。キングギドラでも来たか(未来予想図)。
 『ヤア、珍獣ゲルポボ。』 「あああ、思った通りにかなえられてく・・・。」(予定調和)
 これが、ドシーン音の真相だ(究明)。
 一方、ズシーン音は、西村さんが落とし穴に落ちた音だった(意外性)。

 終電に間に合わないと思います。

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nkmrmsht666

Author:nkmrmsht666
奇忌危棄鬼(めずらしい演劇)主宰
ハットリトリック(めずらしい楽団)アコーディオン奏者

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